2010年11月12日金曜日

【国際大会】2010年世界選手権レポート

第34回世界サンボ選手権大会(シニア) 試合レポート
(於:ウズベキスタン・タシケント)

2010年11月5・6日

初日(11月5日)

【女子48キロ級:参加11名】
 八木沼志保選手が3年連続5回目の出場。1回戦はシード、2回戦で昨年3位・元欧州王者のキリロバ(ブルガリア)と対戦。序盤に隅返しで2ポイント奪われた後、腕十字を取るチャンスがあったが決まらずスタンド。後半に抑え込み2回で4ポイント追加されて0-6で敗退。キリロバが準決勝でモスクビナ(ベラルーシ)に敗れて敗者復活戦には回れなかった。
 決勝ではモンゴルの若手ムンフバットが足技でポイントを重ねて3-0で初優勝、モスクビナの11回目の優勝はならなかった。

1位 ムンフバット・ウランツェンツェグ(モンゴル)
2位 モスクビナ・タチアナ(ベラルーシ)
3位 モルチャノワ・マリア(ロシア)
3位 キリロバ・ガブリエラ(ブルガリア)

【女子56キロ級:参加8名】
 日本は不参加。世界2位4回のラジェバが引退して起用されたステファノバ(ブルガリア)が9月のスポーツアコード北京大会2位からの好調を維持してシニア初参加で優勝。2位は昨年2位のルズメトワ(ウズベキスタン)を破って勝ち上がったエステベソワ(キルギス)。昨年優勝のモリッチ(セルビア)は不参加。

1位 ステファノバ・カリーナ(ブルガリア)
2位 エステベソワ・アナーラ(キルギス)
3位 ルズメトワ・ウギジョン(ウズベキスタン)
3位 ゼンチェンコ・タチアナ(ロシア)

【女子64キロ級:参加9名】
 日本は不参加。07・09年優勝のレシュコワ(ベラルーシ)を初戦で下したグロモワ(ロシア)が優勝。

1位 グロモワ・イリーナ(ロシア)
2位 イワノバ・バニャ(ブルガリア)
3位 レシュコワ・アナスタシア(ベラルーシ)
3位 イッサタエワ・アルミラ(カザフスタン)

【女子72キロ級:参加6名】
 日本は不参加。昨年3位に終わったベテランのガリャント(ロシア)が復活、6回目の優勝を飾った。昨年優勝のラドゼビッチは3位。

1位 ガリャント・スベトラーナ(ロシア)
2位 ジルキバエワ・アリヤ(カザフスタン)
3位 ラドゼビッチ・カツィアリナ(ベラルーシ)
3位 エシュテミロワ・ソヒバ(ウズベキスタン)
 
【女子+80キロ級:参加5名】
 日本は不参加。世界10回優勝のロディーナ(ロシア)が危なげなく勝ち進んで11回目の優勝、48㎏級モスクビナの記録を抜いて女子では史上単独1位。男子+100㎏級のハサノフ(ロシア)の記録に並んだ。

1位 ロディーナ・イリーナ(ロシア)
2位 ヤドコウスカヤ・イリーナ(ベラルーシ)
3位 シティモワ・アナーラ(カザフスタン)
3位 アラドゥソワ・オビダ(ウズベキスタン)

【男子52キロ級:参加10名】
 日本は不参加。02・05年世界王者のジュラエフ(ウズベキスタン)が地元の期待を背負って決勝進出。逆ブロックからは04年世界2位で、ここ数年は57㎏級に出場していたマイロフ(アゼルバイジャン)が勝ち上がる。序盤から足技でジュラエフがポイントを重ねて3-0、3回目の世界制覇かと思われたが残り20数秒のところでマイロフが抑え込みに入る。ジュラエフは返せずに4ポイント献上、大逆転でマイロフが初優勝。
 08年世界2位のソロノコフ(ロシア)、07年世界王者のクザナシビリはともに初戦敗退で敗者復活にも回れなかった。

1位 マイロフ・エリチン(アゼルバイジャン)
2位 ジュラエフ・シャフカット(ウズベキスタン)
3位 クルリポ・アンドレイ(ベラルーシ)
3位 カリモフ・アクマリディン(タジキスタン)
 
【男子62キロ級:参加11名】
 全日本12連覇中の松本秀彦選手が参加予定だったが試合直前の怪我で辞退。昨年・一昨年と3位入賞のムカノフ(カザフスタン)が昨年欧州2位のウィン(ロシア)らを破って勝ち上がる。決勝では昨年欧州1位のスビモニシビリ(グルジア)に腕十字を決めて初優勝。昨年世界2位のボリソフ(ブルガリア)は初戦で敗れた。

1位 ムカノフ・アザマット(カザフスタン)
2位 スビモニシビリ・ダビト(グルジア)
3位 アフマドフ・エルヌール(アゼルバイジャン)
3位 エラリエフ・ヌルラン(キルギス)

【男子74キロ級:参加17名】
 嘉見俊宏選手が3年ぶり3回目の出場。1回戦はシード、2回戦でボバエフ・シュフラット(ウズベキスタン)と対戦。肩車で2ポイント先行され、再度相手が肩車に来たところに反応したが内股を受けてしまいこれが一本。ボバエフが次戦で敗れて敗者復活は無し。
 世界6回優勝のサビノフ(ウクライナ)が不参加で混戦となり、決勝の組み合わせはベラルーシの若手ラマンチュックと05年世界2位・昨年3位のダニエリャン(アルメニア)。経験に勝るダニエリャンが僅差で退けて初優勝。

1位 ダニエリャン・アショット(アルメニア)
2位 ラマンチュック・アレクセイ(ベラルーシ)
3位 レベデフ・ドゥミトゥリー(ロシア)
3位 ボバエフ・シュフラット(ウズベキスタン)

【男子90キロ級:参加13名】
 日本は不参加。07・08年優勝のカズショナック(ベラルーシ)が08年世界3位のクルギニャン(ロシア)らを破り順当に決勝進出。逆ブロックは地元ウズベキスタンの英雄クルバノフが05年世界王者のバトバヤール(モンゴル)らに勝って準決勝まで進むが、ゾイロフ(タジキスタン)にパッシブ差で敗れる。3位決定戦でも06年世界1位・昨年2位のボダベリ(グルジア)に負けて5位に終わった。
 決勝はカズショナックがゾイロフを投げ技で圧倒してテクニカル一本で勝利、2年ぶり3回目の優勝を飾った。

1位 カズショナック・アンドレイ(ベラルーシ)
2位 ゾイロフ・アブバカール(タジキスタン)
3位 ボダベリ・ミンディア(グルジア)
3位 クルギニャン・エドゥアルド(ロシア)

【男子+100キロ級:参加11名】
 小貝大介選手が初参加。1回戦はシード、2回戦で昨年世界3位・欧州3回優勝のイリエフ(ブルガリア)と対戦。序盤に腕を突っ張って守る組手をしてコーションを受ける。その後支え釣り込み足で大きく相手を投げ飛ばして4ポイント獲得。逆転に向けてイリエフが猛攻にかかり、1度腹這いにされて2ポイント失う。更にパッシブが重なっていき4-5となり惜しくも敗退。イリエフが決勝に進出したので敗者復活戦に回る。初戦は相手のビンセント・マジド(インドネシア)が棄権して不戦勝、3位決定戦に進む。ここでトゥルダノフ(ウズベキスタン)と対戦。この試合でも支えが決まって1ポイント先行するが、大外を返されて1ポイント、更に抑え込まれて1-5に。その後1ポイント返すが2-5で終了。メダルに届かなかった。
 逆ブロックからは上位常連のリバク(ベラルーシ)を下した08・09年世界王者のミナコフ(ロシア)が決勝へ。イリエフを2-1で下して3連覇達成。リバクは準決勝で負傷し3位決定戦を棄権した。

1位 ミナコフ・ビタリー(ロシア)
2位 イリエフ・イワン(ブルガリア)
3位 トゥルダノフ・アザマット(ウズベキスタン)
3位 ダビタリビリ・アレクサンダル(グルジア)
5位 小貝大介


2日目(11月6日)

【女子52キロ級:参加10名】
 日本は不参加。元欧州王者・07年世界2位のジャルスカヤ(ベラルーシ)を09年世界ジュニア1位のウバイドィラエワ(ウズベキスタン)が破るが準決勝で06年世界2位・08年3位のミルゾヤン(ロシア)に逆転負け。逆ブロックからは世界ユース2連覇中のバツォバ(ブルガリア)を下してバータルサイハン(モンゴル)が決勝進出。その勢いでミルゾヤンを4-1で破って優勝。モンゴルの新鋭が女子軽量2階級を制した。

1位 バータルサイハン・ソロンゴ(モンゴル)
2位 ミルゾヤン・スザンナ(ロシア)
3位 バツォバ・ゲルガナ(ブルガリア) 
3位 ミンガゾワ・レナリヤ(カザフスタン)

【女子60キロ級:参加9名】
 日本は不参加。64㎏級で09年欧州2位のサイコ(ウクライナ)がこの階級に出場、昨年優勝のプロコペンコ(ベラルーシ)を破って決勝進出。逆ブロックからは昨年3位・世界ジュニア2連覇、柔道でも欧州ジュニア2位・世界ジュニア3位のイリエバが昨年2位のコステンコ(ロシア)を下して勝ち上がる。決勝はアクティブ1個ずつの互角の展開で、ラストアクティブのイリエバがシニア初優勝。

1位 イリエバ・イベリナ(ブルガリア)
2位 サイコ・オレーナ(ウクライナ)
3位 コステンコ・ヤナ(ロシア)
3位 プロコペンコ・カツィアリナ(ベラルーシ)

【女子68キロ級:参加8名】
 日本は不参加。昨年優勝のウソルツェワ(ロシア)が昨年3位のダビドワ(モルドバ)を3-0で破って2連覇達成。

1位 ウソルツェワ・オルガ(ロシア)
2位 ダビドワ・マリアナ(モルドバ)
3位 ハイダロワ・グラサル(ウズベキスタン)
3位 セメニュック・マリア(ウクライナ)

【女子80キロ級:参加6名】
 日本は不参加。06・08・09年優勝のオリャシュコバ(ブルガリア)が準決勝で初出場のカサンツェワ(ロシア)に腕十字で敗れる。カサンツェワが決勝でバトゥルガ(モンゴル)をパッシブ1-0で下して初優勝。

1位 カサンツェワ・ナタリア(ロシア)
2位 バトゥルガ・ムンフトゥヤ(モンゴル)
3位 オリャシュコバ・マリア(ブルガリア)
3位 サベンコ・タチアナ(ウクライナ)

【男子57キロ級:参加14名】
 伊藤要選手が2年連続2回目の参加。1回戦でムラドフ・カリム(リトアニア)と対戦、接戦をパッシブ差1-0で制する。2回戦の相手はオトゴン(モンゴル)。肩車と抑え込み、大内刈りと波状攻撃を受けてしまいテクニカル一本負け。オトゴンが準決勝で昨年2位のガシモフ(アゼルバイジャン)に敗れて敗者復活戦には回れず。
 決勝戦ではそのガシモフを08・09年52㎏級2連覇のバイバティロフ(カザフスタン)が投げ4ポイントからの腕十字で破って2階級制覇。

1位 バイバティロフ・エルボラット(カザフスタン)
2位 ガシモフ・イスラム(アゼルバイジャン) 
3位 オトゴン・チンバット(モンゴル)
3位 ヤルシェフ・セルゲイ(ロシア)


【男子68キロ級:参加20名】
 大原裕樹選手が2年連続2回目の参加。1回戦の相手はラバン・クマル(インド)。実力差のある相手を開始早々の肩車一本で下す。2回戦でボコエフ・ティムルラン(キルギス)と対戦、前半に帯取返し4ポイントで先行され、後半に足払いと変形の飛行機投げで加点され0-9で敗退。ボコエフが次戦で敗れて敗者復活は無し。
 決勝の顔合わせはベテランのバジレフ(ベラルーシ)とグルジアの若手ナフリシビリとなり、バジレフがアクティブで先行した後に得意の腕十字で一本。この階級では3年ぶり3回目、62㎏級時代を合わせると5回目の頂点に立った。昨年優勝のツァガンバータル(モンゴル)は不参加、モンゴルからは07年世界2位で柔道でも活躍するサンジャースレンが出場したがバジレフに敗れ、3位決定戦でもクレツコフ(ロシア)に負けて5位。

1位 バジレフ・ドゥミトゥリー(ベラルーシ)
2位 ナフリシビリ・レワン(グルジア)
3位 ハティップ・アルセン(カザフスタン)
3位 クレツコフ・ニキタ(ロシア)

【男子82キロ級:参加18名】
 日本は不参加。世界6回優勝のラフマトゥリン(ロシア)がオール関節技一本で決勝進出。逆ブロックからは、ここ2年ほど柔道をメインにしていた07年世界2位のツィクラウリ(グルジア)が07年世界1位のアブドゥルガニロフ(ベラルーシ)らを破って勝ち上がる。決勝戦はツィクラウリが組手有利に立ち技を展開しラフマトゥリンにパッシブ。その後背負い投げ1ポイントで差を広げる。後半で守りに入ったツィクラウリにパッシブが重なり1-1になるが、内容差でツィクラウリがリードのまま終盤へ。このままツィクラウリが逃げ切るかと思われたラスト40秒頃、ラフマトゥリン得意の相手の懐に潜り込んで前転する膝十字固めが炸裂、逆転で2年ぶり7回目の優勝。劇的な展開に満員の観客はスタンディングオベーションで祝福した。

1位 ラフマトゥリン・ライス(ロシア)
2位 ツィクラウリ・レワン(グルジア)
3位 アフマドフ・エルメディン(アゼルバイジャン)
3位 シャムシエフ・サヤット(カザフスタン)

【男子100キロ級:参加9名】
 日本は不参加。昨年2位のホルカシェフ(タジキスタン)が07年世界1位のパブリアシビリ(グルジア)らを破って決勝進出。決勝は09年欧州1位のオシペンコ(ロシア)との僅差の勝負になり、オシペンコがパッシブ差で初優勝。
 
1位 オシペンコ・アルテム(ロシア)
2位 ホルカシェフ・ナビムハマット(タジキスタン)
3位 シオマチュキン・ヤウヘン(ベラルーシ)
3位 フダイクロフ・オリム(ウズベキスタン)

【団体順位】
男子/ 1位 ロシア  2位 ベラルーシ  3位 グルジア  
女子/ 1位 ロシア  2位 ブルガリア  3位 モンゴル

【参加国】
アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ブルガリア、コロンビア、フランス、
グルジア、ドイツ、ギリシャ、インド、インドネシア、日本、カザフスタン、キルギス、
リトアニア、モルドバ、モンゴル、モロッコ、パキスタン、ロシア、韓国、スペイン、
スイス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタン、ベネズエラ 
(役員のみ)ラトビア、米国                   
以上30ヶ国


【参加選手数】
男子122名、女子71名  計193名

<総評>

 地理的に欧州から遠いことが影響したのだろうか、参加国は昨年に比べるとかなり少なかったが(昨年は46カ国)、その分各国とも入賞のチャンスが高い選手に絞って派遣していたようで試合のレベルは高かった。
運営に関しては、ウズベク連盟がほぼ毎年アジア選手権を開催しており2年前には世界ジュニアもあったので大きな混乱はなく、スムーズに進行された。
 日本選手団は松本選手の負傷による不参加が残念であったが、小貝選手が強豪相手に僅差の好勝負をしてメダルまであと一歩のところに迫った。得点力のある選手なので、今後ルールの熟知や戦術の研究に励めば表彰台が見えてくると思う。伊藤選手も旧ソ連の選手から1勝を挙げ健闘した。
 各国の選手の中で特筆すべきはやはり82㎏級のラフマトゥリン選手のオール一本勝ちでの優勝であろう。立ち技で押されていても一撃必殺の技で逆転するあたりはまさに職人芸だった。
 今回はロシアが男子で優勝3階級にとどまり、82㎏級以外の2階級は決勝で僅差の結果という状況であった。2階級を制したカザフスタンの選手はいずれも20代前半の若手であり、やはりアジア勢の中では最も層の厚さを感じさせた。
 女子ではブルガリア・モンゴルの若手が2階級ずつ取って躍進したが、ロシアがベテランの活躍もあって団体ポイントで大きく引き離して優勝した。
 なお11月7日にはコンバットサンボの部が行われたが、ロシアのエメリヤエンコ兄弟、ブルガリアのイワノフ・ブラゴイら有名選手の参加は無かった。試合はロシアが6階級を制し、ウズベキスタン・ブルガリア・アルメニアが各1階級で優勝した。
 来年の開催地については世界ジュニアが10月中旬にラトビア(リガ)、シニアが11月中旬にリトアニア(ビリニュス)ということでFIAS会議において決定した。

[文責:筒井 穣]